僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

映画『リアル・スティール』 たった1つの設定が、ロボットに生命を吹き込んだ。【感想その2】

f:id:uselesslessons:20150905003857j:plain

◆影の主人公「シャドー機能」

 主人公たちが駆るロボットATOMに、「シャドー機能」がついているという設定は、実に見事だったと思う。「シャドー機能」は、ATOMに生命を吹き込み、物語に生気をもたらした。設定自体は平凡極まりないのに、それが物語に取り込まれるや否や、化学反応のように全てが生き生きとしてしまう魔法。監督が凄いのだか、脚本が凄いのだかわからないのだが、いずれにせよ、匠の業だったと思う。昨日の【感想その1】でも少し触れたことだが、改めて記しておきたい。

 

1.「シャドー機能」とは何か。

 物語上では、ロボットが人間の動きを模倣する機能。人間が手を上げれば、ATOMは手を上げて、人間がステップを踏んだら、ATOMもステップを踏む。チャーリーの恋人ベイリーは、ATOMの「シャドー機能」を見て、「珍しいわね」と言っていた。劇中では、他のロボットにシャドー機能がついている様子はない。ATOMが人間を真似ることで、動きを学習できるのに対して、他のロボットは全てキーボードによるプログラミングによって動かされている。コントロールも、他のロボットは全てキー操作だが、ATOMは「シャドー機能」によって動かすことができる。

 

2.「シャドー機能」が、“友情”を形作る。

 ATOMを廃品置き場から掘り出してきた直後、マックスがATOMと見つめ合う場面がある。マックスが首をかしげると、ATOMが首をかしげる。マックスがぴょんぴょん跳ねると、ATOMもぴょんぴょん跳ねる。嬉しくなったマックスは走り出す。そうすると、そのすぐ後からATOMがそっくりに走って追いかけてくる。まるで二人は仲のよい友達のようだ。

 マックスとATOMの間に、“友情”が生まれる場面だ。単にシャドー機能がついているだけなのに、そこに何かしらの心の交流があるように見えるのはなぜか。おそらく、日常的な場面でも、人間と人間に間には、そのように相手の動きに同期することによって、共感を得ようとするシステムがあるからだろう。ミラーニューロンの働きとか、まさにそうだと思う。

 「シャドー機能」が、友情の成立を表現する例は他にもある。例えば、映画『E・T』では、「アウチ!」と叫ぶ動きを、E・Tが言わば「シャドー機能」的で真似をした。この行為自体は単なる模倣に過ぎなかったが、これが伏線となってラストへとつながる。故郷の星に帰るE・Tが、胸を指して「アウチ!」と漏らすシーンは、少年との間に共感をもとにした心の交流があったことを、観客に感動的に知らしめる。

 

3.シャドー機能がシンクロ・ダンスを可能に。

 「ATOM vs Twin Cities」戦の登場時のダンスは、本作で最も好きなシーンの一つだ。何回観ただろう? 思わず微笑んでしまうような可愛さと、少年心をくすぐるロボットの格好よさが、シンクロ・ダンスによって、調和した一つとして、こちらに迫ってくる。

 この時点で、「シャドー機能」は単なる機能の一つという意味を超えて、ATOMの性格そのものとなっている。つまり、ATOMが、シャドー機能によってマックスの動きを追っているのではなく、あたかも自分の意志でマックスとシンクロしているように感じてしまう。

 こうした準備があったからこそ、王者ゼウスとの闘いで、マックスが「立て! ATOM」と叫ぶのも、全く白々しくなくなる。ATOMは、感情の分からぬロボット風情ではなく、ともに闘うパートナーなのだ。マックスの祈りが力となり、ATOMは何度でも、立ち上がる。それに僕たちは拍手喝采して涙を流す。すごいぞ! ATOM! 負けるな! ATOM!

 

4.「シャドー機能」によって、ATOMの闘いは、チャーリーの闘いへ。

 さて、物語はクライマックスに向けて、緊張度を高めてくる。ATOMは王者ゼウスの激しい攻撃を受け、音声認識機能を破壊されてしまうのだ。ATOMの意識が薄れかけている描写があり(これはこれで変な話だが、観ているときは変に感じない)、いよいよATOMが窮地に追い詰められる。ATOMはもはや動くことができない。

 ここで登場するのが、この記事の主役、というより、この映画の隠れた主役、そう、「シャドー機能」なのだ! ATOMに残された唯一の道は、チャーリーの動きを模倣して動くこと。ここでATOMの闘いは、チャーリーの闘いとなる。だからベイリーが叫ぶのだ。「チャーリー、闘え!」。

 

 映画って凄い、と思う。平凡な設定は、単に平凡に過ぎないし、月並みな物語は、やはり月並みな物語に過ぎない。しかし、それでも、平凡な両者を上手く組み合わせることによって、非凡なものを生み出せる可能性が可能性がある。魔法みたいじゃないか。

 全体的な感想はこちら↓。

uselesslessons.hatenablog.com