無限を飛び越えるために、有限を掘ればいい。
泳げない我々を襲ったのは、どうしようもない欲望。すなわち海の向こうのあの島へ渡りたいという欲望でした。
「あの島に行ってみたいんだ」
誰に言うわけでもなく、我々は我々の欲望を確認するためだけに、何回もそう呟いたのでした。時には、本当にあの島に行ってみたいのか、それともただ単にこの島を抜け出したいだけなのか、などと自問自答を繰り返しました。
「無理だ、我々は泳げない。泳げない者に、海を渡ることは不可能なのだ」
誰もがわかっていることを、誰もが何度も繰り返しました。
「あの島に行ってみたいんだ」
「無理だ、我々は泳げない」
その度に我々は意気消沈して、寄せては返す波を見つめるのでした。どうして我々は泳げないのだろう。どうして泳げるようになっていないのだろう。
「それでは、飛んだらいいじゃないか」
あるとき、一人の男が言いました。泳げない理由はそれじゃないのか、我々は飛ぶために、泳げないのだ。
島で一番高い木から飛び降りる者が続発しました。大空をにらみ、手をばたつかせ、若者は次々と高い木から飛び降りていきます。ねえ、あれって飛んでいるの、それとも落ちているの、と問うものもいました。ほとんど落ちている、でも部分的には飛んでいるのかもしれない、少なくとも完全に落ちているわけではない、と論じる者もいました。今はっきりしていることは――絶望的な決意を込めて、ある男が言いました――もし我々が飛べないとしても、今我々は飛ぶしかない、ということだ。我々は飛ばなくてはならない。そうでなくては、もうするべきことが他にない。
しかし、しばらく経ったのち、高い木から飛び降りて大けがをした男が言いました。
「我々は、飛べない」
誰もため息をつきました。
「我々はみな、そのことを知っている。ずっと知っていて、今も知っている。だから飛ぶ他はないのだ」
「いや」と男は力強く言いました。
「我々はみな、飛べないことの意味を知らなかったのだ」
そして男は地面を掘り始めました。
「海を渡ることはできない。海の上を飛び越えることもできない。しかし、海の下を潜り抜けることはできるかもしれない。あの島は、この島とつながっているのだ。我々がどうしても行きたいあの場所は、この場所とつながっているのだ。つながっている!――そのことを、我々は知らなかったのではないか」