僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

【ルーシー】 史上最強クラスの超人、ルーシー。そして神へ!

 史上最強クラスの超人、ルーシー。そしてそれを可能にした、リュック・ベッソン監督の「やりたいことをやり放題」主義。素晴らしい! 科学的根拠は皆無、物語は一貫しているかどうかも判断がつかないが、そんなことどうでもいい。『レオン』の渋さと、『2001年宇宙の旅』の無駄に深い哲学ワールドを足して3で割り、あとは、スカーレット・ヨハンソンが美貌を振りまきながらマフィアを壊滅させれば、あっと言う間に映画『ルーシー』の完成だ。

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◆トンデモ映画! 実に素晴らしい!

 ドラゴンボール孫悟空に勝てる人材を映画界で探すとしたら、本命スーパーマン、次点でマンハッタン(映画『ウォッチメン』)、そして穴馬として本作のルーシーを推そうと思う。ルーシーはスーパーマンのように腕力が惑星級というわけではないし、マンハッタン(下写真)のように、青い肌のオッサンがなぜか海パン姿、というふうに、容姿からしてすでに人智を超えている、というわけでもない。マフィアを壊滅させるくらいなら、イーサン・ハントでも十分できるし、見かけは海パン姿どころか、あのスカーレット・ヨハンソンなのだ。彼女の美しさこそ、惑星級である、きゃっほー。

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 一言でいうと本作は、平凡な女性が神になる話である。暴力に怯えるだけの女性でしかなかったスカーレット・ヨハンソンが、新しいドラッグを大量に摂取することにより、普段は眠っている脳の機能を活性化させ、超人化していく。リュック・ベッソン監督の「やりたいことをやり放題」主義の前に、不可能という3文字はない。銃を構えた数十人の男たちが一瞬で気絶するくらいはもちろん序の口、重力を無視して天井に張り付いてもいいし、急に存在しない壁を作り出してもいい。スカーレット・ヨハンソンの身体がパウダーのように消えてなくなりそうになってもいいし、ゴジラと見紛うほどの光線を口から吐いてももちろんOK.改めて思う。僕はこういう無茶苦茶な映画が大好きだ。

 ルーシーが人間の存在について語るシーンは、非常に面白かった。ルーシーが大学の教授たちと「存在の核は時である」という哲学談義をしているすぐ脇で、マフィアと警察がドンパチと撃ちあっているのだ。暴力性と形而上学が出会った奇跡の瞬間! かつてショーペンハウアーが「塹壕でも哲学はできる」(大意)と書いていたことに感銘を受けたが、それを実写化するとこうなるのかもしれない…し、ならないのかもしれない。

 それにしても、マフィアの勇敢さには頭が下がる。やられてもやられても立ち上がる、ネバー・ギブ・アップ、ネバー・サレンダー。手下がボスに「あれは魔女ですぜ」と警告していたが、この素っ頓狂さは、かなり愛らしい。すでにその時点で、ルーシーは魔女以上の何かであることは間違いないのだ。例えるのであれば、大げさに言うべきではないか。光の速さを指して、「あれはウサイン・ボルトですぜ」とでも言うのか。

 ラストは、なにやら汎神論的な展開を見せる。「汎神論的な展開」という言葉を、一生のうちで一度でも使うとは、あの頃は考えられなかった。しかし、今や僕はルーシーを観た後なのである。「私は至るところにいる」というメッセージを残して、ルーシーは可視世界から消え去る。どうして消え去るのか、という問いは無効である。なぜから、それは人智を超えているからだ。珍しく狼狽えてばかりのモーガン・フリーマンが、ルーシーから受け取ったUSBフラッシュメモリには、人類と世界の全ての知識が入っているらしい。映画史上最強クラスの人類は、人類史上最高の賢者でもあったのだ。ルーシーという恐るべき神の誕生に、今は平伏すばかりである。

リュック・ベッソン監督 2014年 フランス)

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