僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

【グランド・イリュージョン】カッコいい、が正義です。【感想】

 ヒーロー度120%増量中。万能で、義賊で、マジシャンというヒーロー要素を過剰に詰め込んだ上に、これでもかとミス・ディレクション(と彼らは言っている)を盛り込んだ本作は、その裏で、ただ自分の仕事を真面目にこなしただけの人物が悪者として逮捕されたり、橋の上で車が爆発していたりするが、そんなことは忘れた方がいい。ただマジシャン軍団に拍手喝采を送るのだ。マジックショーで、「謎の美女」が“切断”されそうでも、決して気にしないのと同じように。

By Wahhahha

 f:id:uselesslessons:20150916184946j:plain

◆夢と希望が棲むところ

 全てはミス・ディレクションのためなのだ。僕は製作者の思惑通りに踊らされて、思惑通りに驚き、思惑通りに感心した。素晴らしい! 僕のような観客を、製作者は望んでいたのではないか。ほら、ここにいます、理想的な観客が。最高に楽しかったです、とその観客は話しております。

 もちろん、文句がないわけではない。むしろ文句だらけである。全ての真実が知ったあとに振り返ってみると、なぜそんな行動をとったのか、分からない場面が多い。謎の筆頭は、FBI刑事のマーク・ラファロと、ICPOから来たメラニー・ロラン(下写真)が、どうしてキスをしたのか、である。

f:id:uselesslessons:20150916185034j:plain

 それも、ミス・ディレクションのため、と言うのであれば、僕は抗議したい。こんな美しい女性のキスを、そんなものために使うな、と。僕はこの場面を見て、てっきり

「黒幕はメラニー・ロランだ!」

と思ったのである。裏切られたマーク・ラファロの顔も、ありありと浮かべることができた。チャーミングで健気な女性刑事は、あれほど必死になって犯人を追っていたのに、ふたを開けてみれば、彼女自身が犯人だったのだ。マーク・ラファロの絶望は計りがたい。

 しかし、そうではなかった。ネタバレになるので、詳細には言及しないが、それにしても、メラニー・ロランは優しすぎるのではないか。黒幕の動機にしたって、気持ちは理解できるものの、犯罪は犯罪である。そこは杉下右京のように、「あなたのしたことは、決して許されることではありませんよ」と首を振りながら、断固、逮捕すべきである。

 それでも、逮捕しないのは、なぜか。もちろん、カッコいいからだ。あの世界では、法が正義なのではない。カッコよさが正義なのだ。いくら動機が褒められたものではなくても、無実の罪で投獄された人がいても、それはカッコよさの前では、取るに足らないことなのだ。

 それにしても、マジックは映画製作によく似ている。一つ一つの原理だけ見れば、全くもって平凡なものの見せ方を工夫して、組み合わせていけば、魅力的なショーとして成立してしまう。そういう意味で、マジックは超常現象っぽい現象を見せるのではなく、物語を見せるものなのだろう

 映画もそうだが、「ウソだと分かっているのに、のめり込んでしまう」ということは、実は「ウソだからこそ、のめり込んでしまう」ということと、ほとんど等しいのかもしれない。「信じたい」ということと、「信じている」ということが、ほとんど等しいのとも似ている。

そういう意味では、物語を成立させるための一番の肝は、リアリティの水準を操作することにある。人が信じたいものを、信じられないような形で、信じさせる。捻じれに捻じれているが、現代においては、夢とか希望なども、そういうところに棲みついているような気がする。

 
ルイ・レテリエ監督 2013 アメリカ)

グランド・イリュージョン [DVD]