僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

【大脱出】上腕二頭筋のレジェンド、夢の共演【感想】

 20世紀を代表する上腕二頭筋シルヴェスター・スタローンアーノルド・シュワルツェネッガー。彼ら2人が主演する本作に対して、「もし2人じゃなかったらとしたら面白かったか」と問うことは確かに必然だ。しかし、答えは非常に難しい。「トマトが、トマトでなかったら美味しいか?」という問いに、トマト好きはどう答えるのだろうか。あるいは、トマト嫌いは? 一つ言えるのは、他の上腕二頭筋なら、きっと面白くなかった。なぜなら、思いのほか、この映画には上腕二頭筋が不要だからだ。必要だったのは、スタローンとシュワルツェネッガーの貫録、つまり過ぎ去った時間の存在である

 By Wahhahha

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◆不器用にしか生きられないスタローンと、器用に立ち回るシュワちゃん

 驚いたのは、スタローン演じるレイが、刑務所の場所を知らないことだった。なんせ、ご親切にもDVDにも「そこは地図にのらない動く要塞」とか、「海に浮かぶその要塞は、つくった者すら破れない」なんて書いてある。しかし、スタローンはそんなことはつゆ知らず、決死の脱出劇の末に、その監獄の正体が巨大船であることを突き止めて、ビックリ仰天している。ちょっと言ってくれたら教えてあげたのに…。スタローンさんは、相変わらず不器用なお方である。

 スタローンは不器用な役が似合う。不器用にしか生きられない人々の代表、スタローン。その生き方は、まずは厄介なことに巻き込まれ、味のある表情を浮かべながら観察し、そして上腕二頭筋で相手を叩きのめす。これだ。

 今回の生き方も飛び切り不器用である。スタローンの職業は、いわば“刑務所コンサルタント”。刑務所の構造上の欠点や、運営上の問題点を指摘し、改善に導くのがその職務なのだが、このお方はなんと、自ら投獄されたのち、自ら脱獄することによって、それを指摘する。なんという無駄に強力な説得力。専門家として地位が確立されていれば、ここまでの手順を踏む必要はなさそうなものだが、そこがスタローン一流の不器用さなのだろう。素人が下手なことを言っては、ランボー怒りのアフガンである。

 それに対してシュワちゃんは、不器用とは対極に見える。実際の役者人生を比較しても、スタローンが結局のところ、上腕二頭筋を生かす映画にしか活躍の場を見いだせていないのに対して、シュワちゃんはアクションからコメディまで幅広くこなしてきた。

 この劇中でも、基本的に殴られたり看守にいじめられたりするのはスタローンで、シュワちゃんはそれをおぜん立てしたり、ひたすら励ましたりするオイシイ役だ。そして、ここからはネタバレになるが(以後反転)、シュワちゃんはスタローンを監獄に呼び寄せた黒幕だった。無関係な人として見れば、かなり犠牲的に見えたシュワちゃんの行為は、実のところ、全て自分が脱獄したいがためだったのだ。最後でスタローンに全てを説明するシュワちゃんは、えらくご機嫌さんだが、本来は、スタローンに詫びるべきところである。スタローンも感心していないで、シュワちゃんを責めればいいものを、人が良すぎるのか、例の表情で許してしまう。なんだこの二人。仲が良すぎるじゃないか。

 しかし、このようなレジェンド二人が仲良くしているのを、ポップコーンでも頬張りながら眺めるのも映画ファンの正当な楽しみ方だろう(僕はDVDなのでパリンコを食べながら観た)。バッファロー同士が喧嘩をしているような重量級のアクションシーンも、キレがなくてつまらなくも見えるが、一方で、スタローンとシュワちゃんの貫録を感じさせてもくれる。これはこれで、ひとつの見せ場として確かに成立している。

 

ミカエル・ハフストローム監督 2013 アメリカ)

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