僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

映画を観る代わりに。

 映画を観ることができない状況なので、映画を観ているのと同じような別のことをしたい。何だろうか。あの映画について書くことだろうか。

 何も見えない暗闇の中、なんだかがさがさ動く音がする。続いて木を削るような音。カタカタカタというタイプ音。何かがいるのだが、さっぱりわからない。依然として画面は暗いままだ。、またカタカタカタというタイプ音。何かを打ち込んでいるようだが、ディスプレイは見当たらない。

 ガタっと大きな音が鳴った次の瞬間、閃光が走り、一気に画面の明度が上がる。暗い部屋に強烈な光が差し込み、すべてを真っ白に染め上げる。何も見えない暗闇から何も見えない明るみへ。またカタカタカタというタイプ音。笑い声が聞こえる。誰かが笑っている。小さな声でくすくす笑っている。子どもの声だろうか。もしかすると泣いている? 老年の女性のすすり泣く声だろうか。

 すっと光が薄くなっていく。白に染め上げられた画面から、少しずつものの輪郭が浮かび上がってくる。こっちを向いて笑っている顔。固まっているようにも見える。タイプをしている手。カタカタカタ。カタカタカタ。その手はまるでそこだけが別の生き物であるかの異様に、うねうねと滑らかに動いている。カタカタカタ。カタとカタの間がほとんどなくなっていき、カカタタカカタタカカタタカカタタ、なんて音が聞こえてくる。

「いったい何を打っているの?」

 固まっていた顔が崩れる。口元が、自分の動きを確認するように動く。

「いったい何を打っているの?」

 手は突然止まり、その問いに対する答えを探しているようだった。

「いったい何を打っているの?」

「いったい何を打っているの?」

 手は急速に動き出す。カタカタと言う音は聞こえてこない。急速に動き出したのに、手は何も打っていない。手はまるで打っているかのように動くだけで、何も打たない。

「いったい・・・」

 口もその後、口ごもる。まるで喋っているかのように動くだけで、何も喋らない。

 再び、暗闇が画面を支配する。何も見えない。カタカタカタ。手が動き出す。

「いったい何を打っているの?」