僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

【ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー】スペースオペラの最高峰に名乗りをあげよ。【感想】

 涙が出るほど愛おしいスペースオペラ。SF世界の最先端ぶりと、登場人物のどんくささのギャップを燃料にして、飛び切りの突進劇を披露してくれる。銀河を守るのは、顔色のバリエーション豊かな宇宙人3人と、アライグマが一匹、そして1株の植物。彼らが倒すべきは、「自分、とりあえず悪やってます」と言わんばかりの単純悪。メンバーひとりひとりが不器用で、過去に受けた仕打ちに怒りを感じながら、どこか気弱で義理堅い。彼らに銀河を守ってほしくない。なぜなら、銀河が彼らを守るべきだから。死なないでね、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。

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◆魅力的で捨て鉢なヒーローたち

 素晴らしい! スペースオペラとしては、新シリーズのスタートレックを魅力的だったし、王座に君臨するスターウォーズもある。しかし、そこに割って入りそうなのが、本作『ガーディンアンズ・オブ・ギャラクシー』。不器用な5人のヒーローが、半ば捨て鉢になりながら、銀河を救おうとする話。

 5人のヒーロー、と書いたが、正確に言うと、3人の宇宙人と、1匹のアライグマ、そして1株の植物。もちろん最初に目につくのは、アライグマのロケット君。彼がなんとも魅力的。

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 そう、本作は、“アライグマ物”としても極めて秀逸で、ロケットは、「アライグマラスカル」の可愛さを踏襲しつつ、シュレックシリーズの「長靴をはいた猫」のような騎士道ぶりを発揮し、さらには持ち前の口の悪さで、味方・敵問わず悪態をつきまくるという、なんとも素晴らしいアライグマさんなのである。そんなアライグマさんは、劇中でもっとも重い言葉(の一つ)を吐く。「妻と娘が殺されて、わ~ん? 誰もが大切な人を失って生きてるんだ! お前だけが不幸みたいなツラしてんじゃねぇ!」。アライグマさんの過去にも、きっと色々あったのだ…。

 そんなアライグマの相棒は、植物型ヒューマノイド。「わたしは、グルードだ」の一言しか言葉を使うことができず、そのことを劇中では何回か揶揄されていたが、僕はむしろ、植物にしてはかなり頑張っている方だと思う。褒めてあげてほしいところだ。頑張りはそれではない。グルード君はおそらく戦闘能力ではメンバー随一のものを持っていて、要所で抜群の活躍を見せる。植物だから(という理屈で本当にいいのだろうか)、腕を伸ばして「ゴムゴムのピストル」をぶちかましたり、指をピッケルのように尖らせて敵を突く、なんてことも容易なのである(本当か?)。しかもこの植物は献身的である。ガーディアンズが最悪の危機を迎えたときに、身を呈して守るのもこのグルード君。「いいのか、植物に頼ってばかりで!」と思ったりもするのだが、アライグマさんも信頼しきっているみたいだから、別に構わないのである。ちなみに監督によると、「全てのガーディアンズは映画ではクソッタレ野郎として始まる。グルート以外は。彼は潔白だ。(中略)彼はロケットの人生に巻き込まれた」(Wikipedia「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」)。

 上記2人に比べれば、“ぶっ飛び度”は下がるが、残り3人の宇宙人もキャラクターがそれぞれ面白い。主人公のスターロードことクイルは、母が亡くなった当日に宇宙船で地球から誘拐されるという奇特な経歴を持ち、今は盗人集団の一員として銀河系を股にかけてルパン三世をしている。顔が緑色のガモーラは、両親を殺されたあげくにその敵の養子になるという、戦国時代の武将の娘みたいな境遇で、運動能力と気の強さでメンバーを引っ張る。演じているのは、ゾーイ・サルダナで、アバターの顔面青色から今回は緑色に鞍替え。そしてラストは、こちらも顔色が悪い、筋肉ダルマのドラックス。腕力はおそらく一番強いのだろうが、若干あたまが悪いという設定で、しかも戦闘能力がわりに低い。あまり勝っているイメージがない。少し気の毒である。

 本作でなにより素晴らしいのは、このように欠点があり、暗い過去を抱えている5人が、ある意味で捨て鉢になりながら、銀河を守ろうとする点にある。どのメンバーも、その後の人生のことを、あまり考えていない。ここでも、アライグマのロケットの台詞を引用しておく。「アライグマの寿命は短いしな」(寂しいこと、言うなよな…)。これが、コミカルな雰囲気に覆われている本作に、重みを与えることになっている。映画にはたくさんのヒーローが描かれていて、その動機もさまざまだけれど、ヒーローになることは、半ば捨て鉢にならないとできないことのかももしれない。エンドクレジットの最中にも、例によってオマケの映像がついている。音楽も素晴らしい。至れり尽くせりの映画である。

(監督:ジェームス・ガン 2014年 アメリカ)