お正月に一人ぼっち? それなら「一人ぼっち」映画を観ましょう。勇気が出ます。
◆これほどの孤独は味わいたくないけれど・・・
孤独を描いた映画は素晴らしい。それも飛びっきりの孤独。つまり「周りに人がいるけれど、心は孤独だった」みたいな孤独ではなくて、「周りのどこを見ても、ひとっこ一人いません」みたいな物理的にも孤独な映画である。
オデッセイ(16年2月公開)はどうやらそんな映画のようで、予告編ですでに少し感動してしまった。火星にただ一人取り残されたマッド・デイモンが、地球の支援を受けながら(どんな支援だ?5000万km以上離れているんだぞ)、地球への帰還を果たすという物語(たぶん)。
◆マッド・デイモン取り残されすぎ
マッド・デイモンは映画『インターステラ―』でも、ある惑星に取り残されていた。この映画では地球がもう駄目になっていて、人類は移住先を探している。マッド・デイモンはその移住先を数百光年先まで探しに行く天才物理学者である。彼は覚悟して地球を経つ。何の覚悟か? 「生きて帰ってこられない」という覚悟である。マッド・デイモンは人類の存続のために命を捧げた英雄だったのである。彼は、無事に調査対象となる星に到着し、調査結果を人類に送る。
彼がおかしくなるのはここからである。マッド・デイモンはあまりの孤独に耐えられなかった。しかも到着した星は、人類の移住が不可能な不毛の地。自分の命を捧げた目的を達成できず、家族からも数百光年離れた惑星で、ひとり孤独に生きるマッド・デイモン。ついには虚偽報告までして、人類の迎えを要請し、帰還するためのロケットを奪おうとする。
人類の「強さ」と「弱さ」を描いたこの映画の中で、マッド・デイモンは人類の「弱さ」を代表する人物のひとりなのだが、彼を責める気にはならない。惑星すべてを探しても他の人間が誰一人いない中で、人がどうやって正気を保つことができるのか。そんなことは不可能である。
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◆狂気に身をゆだねることで正気を保った「地球最後の男」
そういう意味で、映画「地球最後の男」は、正気を保つために狂気に身をゆだねた映画である。
・・・とは言っても主人公には狂気に身をゆだねた自覚はない。地球の人類が全滅してしまった状況で、狭い宇宙船に閉じ込められたまま数年間を過ごした主人公の男に、数百年前の男の記憶が憑依する。その記憶に突き動かされるように、主人公は見たはずもない光景を、ひたすら宇宙船の壁という壁に描く。この場面は狂気じみていて恐怖も感じるが、それ以上に人が人を求めるということが、象徴的に描かれていて素晴らしかった(当ブログの感想は以下)。
ラスコーの壁画の時代から、人は他者という無限遠の地点へ、命を削ってまで漸近しようとしていたのである。おそらくそれは、人が人らしく生きるということと、深く関係しているのだろう。
◆孤独な映画が面白いのは、人が他者を渇望する姿が描かれているから。
死を象徴する宇宙で、たった一人残される「ゼロ・グラビティ」(当ブログ感想はは以下)、無人島にひとり取り残される「キャスト・アウェイ」など、「一人ぼっちで取り残される」映画はすべて、たったひとり残された主人公が、他者を渇望する様子が描かれる。彼/彼女は、死の誘惑に必死に抗いながら、他者が待っているはずの未来へと帰還を果たそうとする。
つまり孤独を描いた映画は、表面上は孤独を描きながらも、人間が本来持っている他者への志向性をテーマにしている。他者が存在するということ、自分とは違う目で世界を眺める他者が存在するということが、結果的には、自分が生きるということの基底となっている。これは、「人はみんな支え合って生きているんだ」みたいな話とは、似ているようで全く違う。極端に言うと、憎み合っている人間同士であっても、お互いがお互いの生の基底となっているのである。
そう思えば、70億人もの人類がいるこの地球で、お正月に一人ぼっちであることなど、何の困難もないはずである。一人ぼっちの寂しさをとことん味わい、他者への渇望をたぎらせ、目を血走らせて新年を開始しようではないか。