僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

「スターウォーズ/フォースの覚醒」を批判する。期待通り過ぎて期待外れ 【スターウォーズ祭り開催中】(ネタバレなし)

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  なんということだ。涙を流して批判を開始しなければならない。なんなんだこれは! 面白すぎるではないか。

「ファンって、こういうのが観たいんでしょ」が詰まった2時間。

エピソード4~6の「ルーク三部作」の正統な後継者としてのプライドと堂々たる風格。

 オマージュを捧げるや否や、そこに更なるオマージュを重ねてくるオマージュの特盛丼。

 そんな素晴らしい映画の何を批判するのか。ここから始めよう。

 僕はルーカスの発言の真意がはじめてわかった気がした。

“I think the fans are going to love it. It’s very much the kind of movie they’ve been looking for.”

uselesslessons.hatenablog.com

  全くその通りである。ルーカスは「ファンが待ち望んだ」と言っているが、確かに「フォースの覚醒」は「ファンの、ファンによる、ファンのためのスターウォーズ続編」である。監督のJ.J.エイブラムスはまさに僕らと同じ側で観たファンとして、ファンが喜ぶ映画を作ったのだった。

 その結果、このような映画ができた。ほとんど完璧な変奏である。縮小再生産とは言わない。むしろ「リブート」と表現する方がいいかもしれない。ジョセフ・キャンベルの神話論に則った物語もほとんど完全に換骨奪胎し、スターウォーズらしさを1ミリたりとも変更することなく、新しいスターウォーズを描いてみせた。

 しかし――ここからが、ルーカスの真意だったのではないか、と僕が思っていることなのだが――、ルーカスにとってつまりこれは、ファンが涙を流して喜ぶ映画“でしか”ない、ということなのではないだろうか。

 以前の記事で、スターウォーズはイノベーションだった、と書いた。スターウォーズは、それ以前のSFとは全く違った。非連続な映画だった。皆と同じ舞台ではなく、全く違う舞台で、サイエンス・ファンタジーを舞って見せた。

 ルーカスは『スター・ウォーズ』シリーズの監督をするのをやめた理由について、「映画を作れば批判ばかりされるし、(映画のクリエイティブ面について)わたしが決める前に、周囲の人たちがどうすべきなのか決めようとする。これはあまり面白くないよ。何かを試してみることもできない。何もできないんだ。決められたやり方でやらなくてはいけない。こんなのは気に入らない」と説明。「わたしは実験的な映画でキャリアをスタートさせた。だからそうした映画に戻りた い。でももちろん、そんなのは誰も観たくないんだろうけどね」。(引用はこの記事から)

 エピソード1~3の「アナキン3部作」についても、おそらくイノベーションを目指したものだった。今回のJ.J.エイブラムスによるスターウォーズを観た今、そのことがより一層明らかになった。ルーカスにとって、エピソード1~3は、「ファンのための映画」であってはならなかったのではないか。エピソード4~6をある意味で裏切る映画でければならなったのではないか。

 実際、そのせいかどうはわからないが、エピソード1~3を激しく批判しているファンもいる。下は「ピープルvsジョージ・ルーカス」の紹介文から。

別のファンは「エピソード1・2・3は俺の中では存在しない」と言い切るなど、本作ではその世界的な人気の陰に隠れがちな批判の声もすくい上げている。 


映画『ピープルvsジョージ・ルーカス』予告編

 この映画のスローガンは、「フォースの覚醒」にとって、非常に重要な問いである。

「拝啓、ジョージ・ルーカス様。“遥か彼方の銀河系”は誰のものですか? その創造者? それとも、それを心から愛するファンのもの?」

 もし上のように訊ねられたら、J.J.エイブラムスは、この問いに「ファンのもの」と答えただろう。だからこそ、以前のスターウォーズと連続的な続編を作った。

 そして、ルーカスはおそらくそうは言わなかった(かといって「自分のもの」とは言わないかもしれないが)。彼はいつでも非連続性を目指していた。受け入れられるかはともかくとして、革新性をこそ求めていた。

 どちらが正解だったか。これほど広範にファンを獲得した映画にとって、正解は間違いなく、J.J.エイブラムスだと思う。少なくとも興行的には、そうだ。

 それは分かっている。最高に面白い映画だった。「フォースの覚醒」はこれ以上ないほど心地よい映画だった。しかし、どこかでこのようにも言ってしまいたい。作り手から理不尽でしかないが、こんなことを言ってしまいたいのだ。

「この映画は、最高に心地よい映画“でしか”なかった! 最高に面白い映画“でしか”なかった!」

 僕は自分で驚いたのだ。僕は少しだけ、ほんの少しだけ、自分の期待が裏切られることを期待していた。んー、と唸りながら映画館を出てきて、映画が自分に合わせてくれた満足ではなく、映画に合わせるために自分の認識を変えていく苦労をしてみたかったのだ。

 結論。「フォースの覚醒」は文句なしに面白い映画です。「文句なし」に、文句があるだけです。


「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」予告編