僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

【スターウォーズ祭り開催中】 宇宙の巨大な実在感? 【なぜ人はSWに惹かれるのか】

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 スターウォーズは、アナキン・スカイウォーカーの一生だ、と要約することもできる。彼は幼いころ天才的なジェダイとしてその才能を見いだされ、やがて一国の元女王に恋をして、嫉妬のあまり疑心暗鬼になって、全銀河の運命を変えるほどの大きな過ちを犯す。彼がウィンドゥの右腕を撥ねるなんて馬鹿な真似をしなければ、戦争はそもそもはじまらなかった。

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 そこからの彼は悲惨である。師に反逆しては、自分の能力を過信した余りに四肢を失い、深海魚のような被り物をかぶせられて、ずっとシューシューしている。全長4kmの船にのって、たまに衝撃によろけながらも、帝国=皇帝の忠実な犬として働きづめになり、久しぶりに息子に再会して「私はお前の父だ」と言えば、「ウソだあぁぁぁぁ」と拒否され、光る棒を振り回して殺し合いをすることになる。最期には遅すぎる反抗期がやってきて、飼い主の手を噛んだものの、時すでに遅し。やり直すことはできぬ。被り物を投げて直径160kmの惑星型兵器と共に爆死し、粉塵と化すのである。

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 6つもの映画で主役級の登場人物でありながら、これほど不幸な奴は他にいるまい。エピソード4~6を見ている最中には、ダースベイダーと化した彼が恐ろしくて、彼の心中など考えてもみなかったが、あのシューシューの裏側では、運命に打ちのめされたオジサンの表情があったはずである。振り返ってみれば、エピソード1でポッドレースに勝った瞬間が、彼の人生の絶頂ではなかったろうか。あの少年のあの可愛らしい笑顔が、あのシューシューの中にひとかけらでも残っていたか。幸福な時間は、あの深海魚の被り物のどこに、刻印されていたのだろうか。

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 アナキンが実は危険な男だと感づいていたのは、マスターヨーダであった。さすが現役最年長ジェダイ(800才超)。しかし、この小さな仙人モンスターは、「ふぅむ」とか「危険なものを感じる」などと常々宣いながら、結局のところ何もできなかった。少なくとも目の前では好戦的でなかったはずのアナキンに危険なものを感じながら、何回も会っているはずの議長が、悪の元凶の中の元凶だと見抜くこともできなかったのである。直接対決でも、なんだかやたらと不利そうな場所を選んで敗北。偏狭の星へと身を隠すことになった。

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 逆にアナキンの才能にほれ込んだのは、クワイガン・ジンである。彼は交渉が得意なジェダイとして登場し、アナキンを見いだし、苦難の末ジェダイとしてスカウトすることに成功する。後のことを考えると、なんて馬鹿な真似をしたんだクワイガン、と言いたくなるが、しかしまだ止められるチャンスはあった。志も半ば、突如として目の前に現れたダース・モールの演武を前に敗れ去り、クワイガンは命を落とすことになるのである。その死は弟子であるオビワンを奮起させることに成功するが、クワイガンが最大の過ちを犯すのはこのタイミングである。ここでアナキンを手放したらよかったのに、なんと遺言で「アナキンをジェダイとして大切に育てること」をオビワンに託すのである。なんていらんことを! しかし、師の遺言を守らない弟子がどこにいるだろうか。オビワンはその遺言通り、アナキンをジェダイとして大切に育て、すくすくと育ったアナキンは後に裏切り、オビワンは命を奪われることになるのである。

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 こう考えると、スターウォーズには、完全無欠のヒーローもいなければ、全てを見通す賢人もいない。主要人物のほとんどが、結構な勢いで選択を間違っている。あるいは精神的にきわめて軟弱だったりする。それは人間としては欠点かもしれないが、物語にとっては(少なくともスターウォーズにとっては)長所だったのかもしれない。彼らはその都度必死に考えながら、ついに全てを見通す視点には到達しないし、全てをコントロールする力を身に着けることもない。いつも攪乱されている。何に?  登場人物の全てを翻弄するような、何らかの存在。それは巨大な宇宙であるといってもいいし、世界全体であるといってもいい。あるいは運命とか。登場人物の背後を通して、宇宙の巨大なスケール感に呑み込まれること。スターウォーズの魅力の鍵はそこにあるのかもしれない。「スターウォーズになぜ人は惹かれるのか」という問いに対して、まずこの辺りを糸口にしていきたい。