僕は映画狂、というより、映画を語りたい今日

もしかすると、映画そのものよりも映画館の暗闇のほうが好きかもしれない。

【Life! ライフ】 世界を知ろう、互いを知ろう、ってうるせーよ。【感想】

 「書を捨てて街に出よう」と寺山修司は呼びかけたが、『Life!ライフ』はさらに広げて、「世界に出よ、人々を知ろう!」と呼びかける。全国の引き籠り傾向のある諸君、こんなところで腐っている場合ではないぞ。さあ、扉を開けて、世界を知ろう。しかし、そういった瞬間から、自分の足が無意識に後退していくのが分かる。これは恐怖なのか、それとも怠惰なのか。文字通りの意味に取るとすれば、寺山修司レベルならまだ実践できるかもしれないが…。「このまま自分は一生、部屋に籠って本を読むだけでいいのか」という問いを投げかけてくる、有難くも迷惑な秀作である。 f:id:uselesslessons:20150923105844j:plain

◆十二分に魅力的!(僕の腰は無限に引けていくけれど)

 僕はどちらかというと、部屋の中に籠っていても、人間は世界の全てを知り得るのではないか、と思っている方で、大澤真幸がどこかで「書斎の優れた理論家は、現場にいかなくても、現場の人よりも現場をより深く知り得る」という意味のことを書いていたので、たいへん共感して読んだものだった(まあ、僕が優れた理論家なのか、という問題が残るが)。少なくとも、部屋にこもっているからと言って、引け目に感じる必要はどこにもないのだ。…となると、正反対のメッセージを発するこの映画に対しては、スタート地点からして距離を感じざるを得ない。なんといっても、ベン・スティラー演じる主人公が働いている会社の信条は、以下の通りである(現実の冒険をしよう 映画「LIFE! ライフ」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー カゲヒナタのレビューより引用させて頂きました。感謝致します)。ピース・ボートの宣伝文句としてすぐに使えそうな文言である。

「To see the world,
Things dangerous to come to,
To see behind walls,
To draw closer,
To find each other and to feel.
That is the purpose of life.


「世界を見よう
危険でも立ち向かおう
壁の裏側を覗こう
もっと近づこう
もっとお互いを知ろう
そして感じよう
それが人生の目的だから」

  ベン・スティラーははじめ、妄想癖のある冴えない男という設定で、そこから現実の世界へと勇気をもって踏み出していくというのが本作の基本的な流れなのだが、僕ははじめの時点でベン・スティラーの生き方はけっこう魅力的だと思う。仕事も職人ぶりを極めているし、妄想癖も別に悪くない。ドリームス・カム・トゥルーだけが素晴らしいのではない。夢が夢のままで生き生きと、ただそれを強く願う想像力によってだけ生かされている状態も、圧倒的な肯定に値するのではないか。まあ、ベン・スティラーの場合は、同僚の美しい女性の好意を得たいという、ただそれだけの願望なのだけれど。

 上述の通り、僕はこの映画のメッセージに距離を感じるのだけれど、それを跳ね返してくれるくらい、ベン・スティラーの旅が魅力的であることも確かだし、彼が探し続けているカメラマンが何とも言えずロマンティックな生き方をしており、一生に一度はこういうふうに世界の空気を吸ってみたいと思った。何か始めたくても一歩を踏み出す勇気がないときに観れば、間違いなく背中を後押ししてくれる映画だと思う。なんか悔しいけれど。

ベン・スティラー監督 2013年 アメリカ)